品物を質に取り、返済がなければその品物を貸付金の弁済に充てる仕組みでお金を貸す営業には、質屋営業許可が必要です。古物商許可だけでは始められず、営業所ごとに所在地の公安委員会から許可を受けます。
開業準備で先に確認したいのは、申請書の書き方よりも「誰が営業を管理するか」「予定物件に、その地域の基準を満たす質物保管設備を設けられるか」です。物件の契約や工事を進めた後で基準に合わないと分かると、計画の見直しが大きくなります。
この記事では、全国共通の質屋営業法をもとに、許可が必要な事業、人と設備の要件、書類・費用・手続きの流れ、営業開始後の管理まで解説します。保管設備の具体的な基準や申請窓口の運用は、営業所を置く都道府県の情報と分けて確認しましょう。
質屋営業許可が必要な事業と、古物商許可との違い
「品物を預かる」だけでなく、融資と返済の仕組みを見る
質屋営業法第1条は、物品を質に取り、流質期限までに債権の弁済を受けないときは、その質物で弁済に充てる約束で金銭を貸し付ける営業を定めています。時計や貴金属、バッグなどを預かるという外形だけでなく、貸付けと返済、期限後の品物の扱いが判断の中心です。
例えば、利用者に品物を担保としてお金を貸し、期限内に返済されれば返すという事業は、質屋営業を検討する場面です。一方、品物を買い取って代金を払い、その品物を販売する事業は古物営業の問題になります。「買取店」「預かりサービス」といった屋号だけでは区別できません。
買戻しの約束を付けた取引など、売買なのか質契約なのか判断しにくい計画では、契約書案、お金と品物の動き、期限後の扱いを整理し、営業予定地の警察署の質屋営業担当へ確認してください。名称を変えれば許可が不要になると考えず、実際の取引内容を説明することが重要です。
根拠:質屋営業法第1条・第2条
質預かりと中古品の買取販売は、別の許可として準備する
| 予定する事業 | 確認する制度 | 開業前に整理すること |
|---|---|---|
| 品物を質に取り、金銭を貸し付ける | 質屋営業許可 | 質契約、営業所、管理体制、質物保管設備 |
| 中古品を仕入れて販売する | 古物商許可 | 買取・仕入れの方法、営業所、古物の品目 |
| 質預かりと買取販売を併設する | それぞれの営業に対応する許可 | 質契約と売買契約、預かり品と販売在庫を区別して管理 |
すでに古物商許可を持つ店が質預かりを追加する場合も、質屋営業許可は別に必要です。反対に、質屋が第三者から中古品を仕入れて売る場合には、古物営業に当たるかを別途確認します。
ただし、質流れ品の処分をすべて「中古品の仕入販売」と同じに扱うわけではありません。質屋営業法第18条は、流質期限後の質物の所有権取得と、古物市場での売却に関する特例を設けています。通常の買取販売を併営するのか、流質物を処分するのかを分けて説明しましょう。
古物商の開業も予定している方は、古物商許可の専門サイトで、買取販売に必要な準備を確認できます。法的な区分は古物営業法第2条・第3条も参照してください。
許可は営業所ごと。別店舗や別法人へそのまま使えない
質屋営業許可は、営業所ごとに、その所在地を管轄する公安委員会から受けます。本店に許可があっても、別の店舗でそのまま質屋営業を始められるわけではありません。個人から法人へ事業主体を変える場合も、既存許可の名義をそのまま使う前提で進めないでください。
営業所の移転や営業の譲受け・相続では、必要な手続きが変わります。店舗、営業主体、管理者をいつ変更するのかを決める前に、現在地と移転先の担当窓口へ確認します。
無許可での質屋営業は禁止されています。質屋営業法第5条違反の罰則は、第30条により3年以下の拘禁刑若しくは10万円以下の罰金、またはその併科です。許可申請を提出したことと、営業を始めてよいことを混同しないでください。
質屋営業許可の人的要件と、管理者の決め方
申請者・法人役員・管理者の欠格事由を確認する
質屋営業法第3条には、許可を受けられない事由が定められています。開業資金や経験だけでなく、申請する人、法人の業務を行う役員、管理者の状況を確認する必要があります。
- 刑罰や法令違反:拘禁刑以上の刑の執行を終わるなどしてから3年を経過していない場合、最近3年間の無許可営業による罰金や、その他の罰金について情状により不適当と認められる場合など。
- 住居・破産・心身の状態:住居が定まらない場合、破産手続開始の決定を受け復権を得ていない場合、規則で定める業務遂行能力の基準に該当する場合など。
- 未成年者:営業について成年者と同一の行為能力を有しない場合。ただし、営業の相続人に関する例外があります。
- 過去の許可取消し等:許可取消しから3年を経過していない場合のほか、同居親族の所定の取消し・営業停止に関する事由があります。
- 管理者・法人役員:管理者や法人の業務を行う役員が、法定の欠格事由に該当する場合。
この一覧だけで最終判断せず、該当しそうな事情があるときは第3条の対象と条件を確認してください。単に「過去に破産した」「病気がある」といった事情だけで、永久に営業できないと決める制度ではありません。刑の種類や執行に関する日付、復権の状況などが判断に関わります。
心身の状態に関する規則は、質屋営業を適正に営むために必要な認知、判断、意思疎通を適切に行えるかを基準としています。診断名のみで判断したり、確認しないまま誓約書へ署名したりしないことが大切です。
自分で管理しないときは、管理者を置く
許可を受けようとする人が自ら営業を管理しない場合は、質屋営業の管理者を置かなければなりません。「すべての店舗で、営業者とは別人の管理者が必ず必要」という意味ではありません。
複数店舗の計画や、経営者が別の事業も行う場合には、誰が各営業所の取引、質物、帳簿を実際に管理するのかを具体的にします。氏名だけを借りた管理体制ではなく、勤務状況と実際の担当業務を説明できるようにしてください。
管理者を新たに置く、または変更するときにも許可が必要です。開業後に担当者が退職する場合を含め、後任を決めたら先に警察署へ手続きを確認しましょう。
質屋営業許可の営業所・保管設備は、物件契約前に確認する
全国一律の金庫の重さ・壁の厚さで判断しない
質屋営業では、預かった品物を火災や盗難から守る保管設備が重要です。質屋営業法第7条は、公安委員会が保管設備の基準を定められるとし、基準が定められている地域ではその基準に従うよう求めています。設備が適合しないことは、許可の可否にも関わります。
「壁が何cmなら全国で通る」「何トンの金庫を買えば質蔵の代わりになる」といった情報だけで、物件や設備を決めないでください。その都道府県の基準と、予定する建物・保管設備の具体的な構造を照らし合わせる必要があります。
まず営業予定地を管轄する警察署へ、適用される保管設備の基準と、事前相談に必要な図面を確認します。窓口から基準本文を案内してもらい、設計者や施工業者にも共有して、仕様を詰めていきます。
相談では、取扱品・容量・構造を一緒に伝える
品物が入ることだけでなく、予定する営業に合う保管と管理ができるかを説明します。事前相談用には、次の資料をそろえると検討しやすくなります。
- 営業所の所在地、建物の用途、所有・賃借の別。
- 営業所と保管設備の位置関係が分かる配置図・平面図。
- 壁、床、天井、出入口、開口部、防犯設備などの計画が分かる図面・仕様資料。
- 時計、貴金属、バッグなどの取扱予定品と、想定する保管量。
- 現在の設備を使うのか、新設・改修するのかと、工事予定。
これは、すべてが全国共通の法定添付書類だという意味ではありません。どの資料が審査や事前確認に必要かは、所在地の基準と計画によります。相談後は、何を修正すればよいのか、追加で必要な図面は何かを確認し、設備の発注・工事へ進む順序を決めます。
また、質屋営業の基準に適合する見込みと、建築・消防・賃貸借契約上その工事や用途が認められることは別の確認です。貸主の承諾や建物の条件も整理し、許可の見通しだけで工事全体が可能だと判断しないようにします。
既存店を引き継ぐ場合も、現在の計画で確認する
以前の借主が質屋だった物件でも、営業者が変わる場合や設備を変更する場合には、必要な手続きと適合性を改めて確認します。古い図面と現状が一致しているか、設備の撤去・改修がないかも調べてください。
「前の店が許可を持っていた」という説明だけで契約せず、引継ぎ予定日、営業主体、管理者、設備の現状をまとめて相談することが、開業準備の出発点になります。
質屋営業許可の申請手順と必要書類
人・場所・設備を確認してから、書類をそろえる
- 事業を具体化する:質預かりの内容、買取販売の併営、個人・法人の別、営業所、管理者、開業希望時期を整理します。
- 所轄警察署へ相談する:欠格事由、保管設備の基準、使う様式、図面、手数料、受付方法を確認します。
- 設備計画と書類を整える:必要な設備準備と証明書の取得を進め、申請書の氏名・住所・役員・管理者の記載を合わせます。
- 許可を申請する:営業所所在地の所轄警察署長を経由して公安委員会へ申請し、照会や追加資料の求めに対応します。
- 許可後の準備を仕上げる:許可証を受け取り、標識、取引条件の掲示、本人確認・帳簿・質札などを整えて営業を開始します。
警察署で相談した日、申請した日、許可された日、実際に営業を開始する日は別です。工事、人員、書類、審査の順序を確認し、希望日だけを先に固定しないようにしましょう。
個人・法人・管理者の書類を分けて集める
| 対象 | 主な書類・資料 |
|---|---|
| 個人の申請者 | 許可申請書、履歴書、本籍等を記載した住民票の写し、欠格事由に関する誓約書、市区町村長の証明書など |
| 申請法人 | 許可申請書、定款、登記事項証明書、業務を行う役員の履歴書・住民票・誓約書・証明書など |
| 管理者を置く場合 | 管理者の履歴書、住民票の写し、必要な誓約書、市区町村長の証明書など |
| 保管設備 | 基準が定められている場合の構造の概要と図面 |
| 営業の譲受け・相続など | その事実を証する書類など、申請事情に応じた追加資料 |
ここでいう市区町村長の証明書は、運転免許証などの本人確認書類ではなく、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に当たらないことを証明する書類です。外国籍の方、未成年者などでは、必要な資料や取得方法を事前に確認します。
同じ公安委員会からすでに質屋、古物商、古物市場主の許可を受けている場合には、一定の添付書類を省略できる規定があります。ただし、管理者関係など省略の扱いが異なる部分もあります。古物商許可そのものが質屋営業許可に代わるわけではないため、省略できる書類だけを窓口へ確認してください。
提出部数、証明書の発行時期、写しでよい書類は、提出先の案内に合わせます。規則上の原則と地域の指定が異なることもあり、例えば兵庫県警の申請案内では1通の提出とされています。
書類の根拠は質屋営業法施行規則第1条〜第3条、兵庫県の提出用案内は兵庫県警察「質屋営業許可申請等の手続」をご確認ください。
質屋営業許可の費用と期間は、設備準備を含めて考える
公的手数料と、質蔵・営業所の費用は別
兵庫県警の案内では、新規の質屋営業許可申請手数料は22,000円です。これは兵庫県の公的手数料であり、全国一律の開業総額ではありません。申請する地域の最新金額と納付方法を確認してください。
資金計画は、次の項目に分けると見落としを減らせます。
- 許可申請の公的手数料。
- 住民票、身分証明書、登記事項証明書などの取得費。
- 物件の取得・賃借、保管設備の設計・施工、防犯設備等の費用。
- 帳簿、質札、標識、業務システムなどの準備費。
- 質貸しに用いる資金と、開業後の運転資金。
- 行政書士などへ依頼する場合の報酬と実費。
特に保管設備は、物件と取扱品によって準備内容が変わります。許可の基準を確認する前に安価な設備へ決めるのではなく、適合する計画で見積りを取る順番が大切です。専門家へ依頼する場合も、書類作成、資料収集、窓口対応のどこまで含むのかを確認します。
審査の標準期間は、開業までの保証日数ではない
兵庫県の審査基準では、新規許可の標準処理期間を50日以内としています。相談から50日で必ず開業できるという意味ではなく、申請前の設備準備、書類の収集、内容の補正などを別に見込む必要があります。
まず窓口へ現在の申請予定と設備の状況を伝え、どの段階で申請できるかを確認します。そのうえで、設備の完成予定、証明書の取得、申請、営業開始の準備を日程に落とし込みます。許可前に取引を始めるのではなく、予定に間に合わないと分かった時点で開業日を調整してください。
地域の根拠:兵庫県公安委員会「質屋営業法に関する審査基準等」
質屋の営業開始までに整える本人確認・帳簿・質物管理
取引の場所、本人確認、質札の交付を決める
質屋が質物を受け取れる場所は、営業所または質置主の住所・居所です。買取店で可能な取引方法を、そのまま質預かりに当てはめないでください。
質契約を結ぶ際には、相手方の住所、氏名、職業、年齢を確認する必要があります。使用する本人確認書類や確認方法は現行の規則に合わせ、盗品等の疑いがあるときは直ちに警察官へ申告します。
質物を受け取ったときは、法令に従った質札または通帳を交付します。貸付額だけでなく、品物と契約内容を対応させ、利用者が返済・返還の条件を確認できる運用を作ります。
質物を返す際にも、受け取る人に正当な権限があることを所定の方法で確認します。質札・通帳の有無や本人・代理人の別に応じ、必要な資料や質問による確認と帳簿の照合を行う手順を決めてください。
帳簿と現物を対応させ、最後の記載から3年間保存する
帳簿には、取引年月日、質物の品目・数量・特徴、相手方の住所・氏名・職業・年齢、確認方法などを記録します。質物を返したときや流質物を処分したときにも、所定の記載が必要です。
帳簿は、最終の記載をした日から3年間保存します。電子的な記録を使う場合も、必要な内容を直ちに表示できるなど、規則上の条件を満たす必要があります。
実際の管理では、品物の識別番号と帳簿を対応させ、返還済み、保管中、流質後の品物を区別できるようにします。ブランド名だけでなく特徴を記録し、似た品物との取り違えを防ぐ準備が必要です。
流質期限・利率・返還のルールを先に決める
利率とその計算方法、流質期限などの取引条件は、営業所の見やすい場所へ掲示します。流質期限は原則として質契約から3か月未満にできません。ただし、質置主が営業者で、その取引をする物品を質に置く場合には1か月未満にできないという例外があります。
流質期限が過ぎると、質屋は質物の所有権を取得します。一方、流質物をまだ処分していない場合に弁済の申出があったときは、返還に努める旨の規定もあります。期限後はいつでも自由に扱えると単純化せず、返還や処分の手順を定めましょう。
利率には質屋営業法の特則がありますが、上限だけを見て契約書を作るのではなく、利息に含まれる費用や計算方法を含めた確認が必要です。開業前に、掲示、質札、説明、帳簿の内容が一致しているかを点検してください。
根拠:質屋営業法第11条〜第18条・第36条、質屋営業法施行規則第16条〜第20条
質屋営業の標識・ウェブ掲載と、変更・移転の手続き
2024年のウェブ掲載ルールと、許可証を区別する
質屋は営業所の見やすい場所に標識を掲示し、原則として自ら管理するウェブサイトにも、氏名・名称、許可した公安委員会名、許可証番号を掲載します。2024年4月1日施行の改正により、ウェブサイトでの情報提供が加わりました。
常時使用する従業者が5人以下の場合、または自ら管理するウェブサイトを持たない場合は、ウェブ掲載義務の対象から除外されます。この例外は、営業所での標識掲示まで不要にするものではありません。
質屋営業では許可証の交付制度が続いています。警備業などで行われた認定証の廃止と混同しないでください。質屋の改正内容は、警察庁の質屋営業法等の一部改正に伴う留意事項で確認できます。
事後の届出でよい変更と、先に許可が要る変更を分ける
| 予定する変更など | 確認する手続き・時期 |
|---|---|
| 同じ公安委員会の管轄区域内で営業所を移転 | 移転の許可が必要。移転前に相談する |
| 管理者を置く・変更する | 管理者の設置・変更の許可が必要 |
| 氏名・名称・住所、法人役員などの届出事項の変更 | 所定の変更届を10日以内に提出 |
| 基準が定められた保管設備を変更 | 工事着手の10日前までに変更届を提出 |
| 30日以上休業する・その後営業を再開する | 休業前の届出と、再開時の届出を確認 |
| 廃業する | 10日以内に許可証を返納。残る質契約の処理も行う |
都道府県をまたぐ移転、個人から法人への変更、譲渡・相続などは、この表だけで手続きを決めないでください。変更前後の営業主体・場所・設備を整理して担当窓口へ確認します。廃業や許可取消し後も、残る質契約を適切に結了するための規定があるため、品物や利用者への対応を放置しないことが重要です。
根拠:質屋営業法第4条・第9条・第28条、質屋営業法施行規則第4条〜第9条
質屋営業許可の準備は、事業計画と設備案の整理から
開業を検討している方は、まず「営業予定地」「個人・法人の別」「管理する人」「質預かりと買取販売の範囲」「保管する品物と設備案」「希望時期」を一枚にまとめてください。物件や施工業者が決まっていない段階でも、何が未定なのかを分けておくと相談しやすくなります。
所在地の警察署には、その地域の保管設備基準、事前相談用の図面、申請できる段階、最新の書類と受付方法を確認します。回答を受けたら、追加資料や設備計画を整え、許可申請までの順序を決めます。
サクセスファン行政書士事務所へ相談される場合も、事業と物件の状況、手元にある図面、依頼したい範囲をお知らせください。対応範囲と費用を確認しながら、書類準備や窓口確認の進め方を検討できます。
制度確認日:2026年11月6日。申請時には、営業所所在地の警察が案内する最新の基準・様式・手数料をご確認ください。