「トラックを1台増やせば、利益は出るのか」。荷主から増便の話があり、車両の見積りを取ったものの、購入を決めてよいか迷っていませんか。
増車の判断には、車両価格と月々の返済額だけでなく、追加の仕事でいくら売上が増え、そのための費用がいくらかかるかを確認する必要があります。さらに、荷主から入金されるまで、給与や燃料代などの支払いを続けられるかも確かめます。
受注の見込み、運べる仕事量、増える利益、入金前に必要な現金を順に整理すると、「この条件がそろえば増車できる」と判断するための材料になります。
この記事では、すでに一般貨物自動車運送事業を営む中小トラック運送会社を想定し、追加1台の採算と必要資金を架空の例で確認します。新規許可申請や軽貨物の開業は対象にしていません。
増車の前に、仕事・運転手・運行時間の条件をそろえる
車が増えても、受けられる仕事や運転手がそろわなければ、予定どおりの売上にはつながりません。今回の1台を何の仕事に使い、誰が、いつから動かすのか。次の三つを確認します。
- 追加の仕事:荷主との便数・単価・開始日・支払条件のうち、どこまで合意しているか。増便の打診や交渉中の値上げは、決まった条件と分けて扱います。運賃に含まれる費用を、別料金として二重に足さないようにします。
- 運転手:必要な免許・技能を備えた人がいるか。採用するなら入社日と研修期間はどうなるか。既存の運転手を移すなら、空いた仕事を誰が担うかも決めます。
- 運行時間と車両:荷待ち・積卸し・点呼、休憩・休息・休日、点検整備も含めて、続けられる配車と勤務を組めるか。空車の帰り便にかかる燃料と時間も計画に入れます。
勤務を組む際は、厚生労働省のトラック運転者の改善基準告示も確認します。時間外労働の上限とは別に、拘束時間や休息期間等が示されています。
この条件を踏まえて、実際に運べる仕事量を売上計画に使います。特定荷主の追加便や未確定のスポット便に頼るなら、その仕事が少なかった場合も計算しましょう。
増車で売上と利益がいくら変わるかを計算する
ここからの数字は、実在の会社・相談案件ではない説明用の架空例です。相場や融資審査の目安を示すものではありません。自社の契約条件、運行実績、見積りに置き換えて使ってください。
6台・運転手6人で近中距離の仕事をしている会社を考えます。1台が1日に一つの運行をする形で、月合計108台日の運行実績があるとします。1台日とは、車両1台を1日運行する単位です。この例では、1運行当たりの売上を、契約上の運賃5万円と料金0.5万円の計5.5万円とし、月の売上は108×5.5=594万円です。
増車案では、運転手を1人採用し、追加の仕事を月18台日、同じ単価で行います。18台日は、休息・休日・整備を確保できる勤務と配車が組め、仕事の条件も合う場合の仮定です。採用や受注が未確定なら、条件付きの見込みとして扱います。
比較のため、老朽車を1台更新する案も載せています。増車は追加の仕事で利益を増やす計画、更新は今の仕事を続けるために車を入れ替える計画です。更新案では台数・運行量・売上を増やしていません。
架空の月次比較。金額は万円、消費税を除きます。現状は仮の実績、更新・増車は計画値です。
| 項目 | 現状 | 1台更新 | 1台増車 |
|---|---|---|---|
| 保有台数/運転手数 | 6台/6人 | 6台/6人 | 7台/7人 |
| 月の運行量 | 108台日 | 108台日 | 126台日 |
| 売上 | 594 | 594 | 693 |
| 運転手の人件費 | 252 | 252 | 294 |
| 燃料費 | 90 | 87 | 103.5 |
| 有料道路等の費用 | 36 | 36 | 41.4 |
| 修繕・代車・代替輸送費 | 42 | 34 | 45.6 |
| 保険・車両税・車検等 | 36 | 37 | 39 |
| 減価償却費 | 42 | 51 | 54 |
| 配車・事務所等の共通費 | 72 | 72 | 74 |
| 営業費用合計 | 570 | 569 | 651.5 |
| 営業利益 | 24 | 25 | 41.5 |
比較の条件をそろえるため、年払い・不定期の費用も月額に直しました。人件費には会社負担の社会保険料と賞与の月割見込みを含みます。減価償却費は説明用の仮定で、税務上の償却方法を示すものではありません。自社の計画では顧問税理士等と会計処理をそろえてください。
追加売上99万円に対し、増える営業利益は17.5万円
増車による追加売上は18台日×5.5万円=99万円、追加費用は651.5万円−570万円=81.5万円です。差し引き17.5万円だけ営業利益が増え、全社の営業利益は24万円から41.5万円になります。追加売上99万円が、そのまま利益や手元の現金になるわけではありません。
この例は、新たな仕事が増える場合です。すでに庸車で受けている仕事を自社運行に切り替えるだけなら、その売上は現在の売上に含まれています。増収として二重に足さず、減る外注費と増える自社の人件費・車両費・運行費を比べます。
また、配車・事務所などの共通費を落とさず、車両別に計算した数字を最後に会社全体の試算表と照合します。社長が運転する場合も、その労力を無償として扱わず、役員報酬のうち運送に対応する部分を含め、費用の割り振り方を確認します。
更新案は、燃料費や修繕・代替輸送費の減少と、保険等・減価償却費の増加を合わせ、営業利益が24万円から25万円になる仮定です。更新の判断では、この利益の変化に加え、故障・休車の負担と購入後の支払いも確かめます。
立上り月と仕事が少ない月も、追加1台だけで計算する
通常の運行ができる月に利益が出ても、運行開始が遅れたり、便数が減ったりした月に同じ結果になるとは限りません。先ほどの追加1台について、月18台日の通常計画、月途中に運行を始める立上り月、仕事が少ない下振れ月を比べます。
以下も同じ架空例の月次計算です。金額は万円、消費税を除きます。営業利益への影響は、追加1台の売上から追加費用を引いた金額です。
| 追加1台の条件 | 通常計画 | 立上り月 | 下振れ月 |
|---|---|---|---|
| 運行量 | 18台日 | 8台日 | 12台日 |
| 1台日当たり売上 | 5.5 | 5.5 | 5.2 |
| 売上 | 99 | 44 | 62.4 |
| 費用合計 | 81.5 | 69 | 75.8 |
| 営業利益への影響 | +17.5 | ▲25 | ▲13.4 |
どの月も、追加の人件費42万円、保険等3万円、減価償却12万円、共通費増加2万円の計59万円がかかる想定です。通常・立上り月は、1台日当たりの燃料費0.75万円、有料道路等0.3万円、修繕等の月割見込み0.2万円を足します。下振れ月は、燃料費だけを1台日当たり0.9万円に上げています。
通常計画では99万円−81.5万円=17.5万円の利益が出ます。一方、立上り月は44万円−69万円=▲25万円、下振れ月は62.4万円−75.8万円=▲13.4万円です。仕事が少なくても、雇用費用や車両の費用が同じだけ減るとは置いていません。
採用・研修の一時費用、金利、法人税等はこの表に含めていないため、必要な支出は別に見込みます。また、この表には減価償却費や月割費用が入っているため、赤字額をそのまま資金不足額として使うことはできません。実際の支払日で確認する方法は次の節で扱います。
自社で試算するときは、仕事の少ない月の実績や荷主の条件を使います。便数と単価が同時に下がる場合、燃料だけが上がる場合など、影響の大きい条件を選んでください。無理な長時間運行や賃金の削減で帳尻を合わせる計画にはしません。
初回入金までに、いつ・いくらの資金が必要かを確かめる
月次の営業利益は、仕事の採算を見るための数字です。口座に現金が足りるかは、入出金の予定を別に並べて確かめます。
- 車両購入代金は、損益では減価償却として計上されても、代金の支払いは別の日に発生します。
- 借入元金の返済は営業費用ではありません。金利も営業利益とは別に確認します。
- 売上を計上した月と、荷主から入金される月が一致しない場合があります。
- 保険・車両税・車検等は、月割りした費用と実際の支払月が異なる場合があります。
そのため、営業利益から借入元金の返済だけを引いた金額を「手元に残るお金」として使うことはできません。
納車日だけでなく、採用・融資実行・初回入金の日を並べる
例えば、4月に採用・研修、5月に納車と運行開始、運賃は月末締め翌月末払いという計画なら、5月の仕事の初回入金は6月末です。その間の給与や燃料等の支払いをつなぐ資金も必要になります。
| 時点の例 | 事業で起きること | 資金面で書き込むこと |
|---|---|---|
| 発注前〜4月 | 仕事の条件確定、採用、研修 | 手付、採用・研修費、給与。融資実行より先に払うもの |
| 5月 | 納車、必要な手続、運行開始 | 車両残代金、保険・登録等、借入実行日、返済開始日 |
| 6月末まで | 運行を続け、初回入金を待つ | 給与、燃料、有料道路等の支払日と初回入金日 |
| その後 | 通常運行と返済 | 既存・新規の返済、税金、年払費用、整備・休車予定 |
日程は説明用の例です。販売店との支払条件、採用日、請求締日、金融機関の融資条件に合わせて置き換えます。手付を支払う段階で融資実行が間に合うかも確認してください。
280万円が先行する例でも、それだけで足りるとは限らない
追加車両の総支払額を税込990万円、4月の手付を99万円、5月の残代金を891万円、5月に実行される借入を810万円とします。この条件では、車両代の差額990万円−810万円=180万円を借入以外で用意する必要があります。4月の手付99万円は、5月の借入実行より前に支払います。
さらに、4月の採用・研修等の実支払が30万円、5月の運行に伴う実支払が70万円なら、この3項目だけで180万円+30万円+70万円=280万円が先行します。ここでの実支払額は、先ほどの月割費用とは別に、実際の支払日に置く説明用の仮定です。
280万円には、初入金前の6月の支払い、借入返済、既存業務の支払い・納税等を含めていません。必要資金の全額として使わず、それらも加えた全社の残高を確認します。
表を作る際は、日本政策金融公庫の資金繰り表記入例が参考になります。売上高と回収、設備支出、借入と返済が別の欄になっています。税込みの実際の入出金を記入し、既存借入の返済、法人税・消費税等の納税、他の設備投資も含めましょう。月の途中で支払いが先行するなら、週・日付単位でも残高を追います。
借入の相談では、車両見積りだけでなく、「車両等に必要な支払」「入金までに立て替える支払」「会社に残しておく資金」を分けると、必要額と必要日を説明しやすくなります。
増車を実行できる条件と、見直す条件を決める
ここまで確認したら、通常計画が黒字かどうかに加え、何が決まれば発注・採用・運行開始へ進めるかを書き出します。
- 仕事の条件:開始日、便数、単価、支払条件のうち、どこまで合意しているか。未確定の条件は、誰にいつ確認するか。
- 運行の条件:運転手の入社・研修、配車、勤務、車両の仕様と納期がそろうか。
- 採算の条件:追加費用を含めて利益が出るか。立上り月や仕事が少ない月の負担をどう見込むか。
- 資金の条件:手付から初回入金まで、既存業務も含めて支払いを続けられるか。必要な借入の実行日と返済開始日は合うか。
採用時期が決まらないなら、納車や返済開始を先行させてよいかを見直します。荷主の開始日が未定なら、発注前に条件を詰めます。今の台数での配車や荷待ち、引き受ける仕事の条件を見直すことで対応できるかも、比較に入れてください。
増車には運送事業上の手続も関係します。近畿運輸局の案内では、増車は事前届出、一定の要件に該当する場合は事前認可とされています。車庫等の変更が伴う場合も含め、管轄の運輸支局等に自社の変更内容を確認してください。融資実行日、納車日、運行できる日は別に管理します。
予定が外れたときに資金が足りなくなるなら、金額や時期、仕事の条件を見直す余地があります。実行後も、計画した便数・単価・費用と実績を比べ、翌月以降の見通しに反映していきます。
増車の検討を、事業性評価と銀行への説明につなげる
今回の1台について、どの仕事で売上が立ち、誰が運び、いくら利益が出て、いつ資金が必要になるかまで整理できると、銀行へ相談する際の説明にも使えます。数値だけを示すより、その前提となる取引や運行体制を一緒に伝えられます。
こうした事業の中身や今後の見通しを、根拠とともに金融機関へ伝えることは、事業性評価の対話につながります。増車の試算を作っただけで融資が決まるわけではなく、融資の可否や条件は金融機関の個別判断です。
「荷主との取引や自社の強みを、銀行にどう説明すればよいか」「試算の根拠として、どんな資料をそろえればよいか」を知りたい方は、運送業の事業性評価と融資相談のポイントへ進んでください。運送業の仕事の特徴と、金融機関へ伝える内容・資料を整理しています。