「役員は全員そのままなのに、変更届が必要なのか」「理事長が交代すると、登記と県への届出はどちらを先にするのか」。医療法人の役員改選では、同じ人の重任と、新しい人への交代を分けて考えると、必要な手続が見えてきます。
兵庫県では、役員が全て重任の場合、役員変更届の提出は不要です。ただし、理事長の重任登記と、その登記完了の届出まで不要になるわけではありません。
この記事では、兵庫県所管の既存医療法人について、変更内容ごとの届出、決議と登記の関係、準備する書類を整理します。本文は主に社団医療法人を想定しています。財団医療法人では、役員選任を行う評議員会など、関係する機関が異なります。特定医療法人に該当する場合も、県の記載要領で必要な議事録を確認してください。
まず、全員重任・役員交代・理事長交代を分ける
役員変更届は「法人の役員に何が変わったか」を県へ伝える手続です。一方、登記は法務局の手続。さらに、登記を終えたことを県へ知らせる登記事項変更登記完了届があります。
| 今回の変更 | 兵庫県への役員変更届 | 登記との関係 |
|---|---|---|
| 役員全員が同じ役職で重任 | 提出不要 | 理事長の重任登記と登記完了届は別途必要 |
| 理事・監事が新たに就任、交代 | 必要 | 理事長に変更がなければ、理事・監事の交代だけを理由とする理事長変更登記ではない |
| 理事長が別の人に交代 | 必要 | 理事長の変更登記を行い、県へ登記完了届も提出 |
| 理事長は同じで住所だけ変更 | 役員の就退任とは別に確認 | 登記と登記完了届の対象になる |
全員の顔ぶれが同じでも、理事長を別の理事へ交代するなら「全員重任だから役員変更届は不要」とは判断しません。 県の記載要領は、理事長や常務理事等の変更も役員変更届の対象としています。
まず手元の役員名簿に、変更前・変更後の役職と氏名、任期満了日、就任日を書き出してください。届出が不要な重任でも、法人内の改選決議や議事録作成まで省略できるという意味ではありません。
根拠と最新様式は、兵庫県「医療法人に関する申請・届出」の役員変更届欄、重任登記後の届出は兵庫県の医療法人設立認可説明書の運営・手続き欄で確認できます。
社員・理事・監事・理事長は、同じ意味ではありません
書類を作る前に、誰がどの立場を持つかを分けておきましょう。
- 社員:社団医療法人の社員総会を構成する立場です。ここでいう社員は、診療所に雇われて働く「従業員」という意味ではありません。
- 理事:理事会を構成し、法人の業務執行に関する判断や監督を担う役員です。
- 監事:法人の業務や財産の状況を監査する役員です。法人の理事や職員を兼ねることはできません。
- 理事長:理事のうち、法人を代表する人です。原則として医師・歯科医師である理事から選出します。それ以外の理事を選ぶには知事の認可が関係します。
- 診療所の管理者:個々の診療所を管理する立場です。法人代表者の理事長とは、手続上も別に考えます。
同じ人が社員・理事・理事長・管理者を兼ねていても、それぞれの立場が一つになるわけではありません。たとえば理事を退任する人について、社員からも退社するのか、診療所管理者も退くのかを別々に確かめます。
社団医療法人では、理事・監事の選任は社員総会、理事長の選出は理事会が担います。「社員総会で新しい理事を決めたので、理事長交代も済んだ」としないことが大切です。厚生労働省通知「医療法人の機関について」(兵庫県掲載)に、各機関の役割と決議の基本が示されています。
決議から登記・届出へ進む順番

1.定款と前回の議事録で、任期・人数・変更日を確かめる
現行定款、前回の役員改選議事録、現在の役員・社員名簿、登記事項証明書をそろえます。任期は2年を超えることができませんが、実際の任期満了日は自法人の定款と前回の選任内容から確認してください。
新しい人を迎える場合は、就任する役職だけでなく、資格、兼職、法人との取引関係、監事と理事との親族関係なども県の記載要領に照らします。名前を書き換えるだけで済ませず、候補者がその役職に就けるかを先に確かめるためです。
理事を増やす場合、定款の人数上限を超えるなら、増員決議の前に定款変更認可が必要になります。退任者を補充しない場合も、定款上の員数や法令上の欠員補充の規定を確認し、「辞めた人を名簿から消すだけ」とはしないでください。
2.必要な機関で決議し、就任承諾と議事録を整える
社団の場合は、役員の選任を社員総会で行い、理事長を交代・重任させる場合は理事会で選出します。管理者や重要な使用人の選解任にも理事会の議決が関係します。
会議の招集、定足数、決議、議事録の記載・署名等は、現行法令と自法人の定款に合わせます。県の議事録例はたたき台になりますが、開催していない会議や、行っていない決議の内容をそのまま残してはいけません。
改選を決めた日と、実際の就任日が異なる場合は、両方の日付を記録します。県の役員変更届の記載要領では、この場合は就任後に遅滞なく届け出るよう案内されています。
3.役員変更届と登記を、それぞれの期限で進める
役員変更届が必要なケースは、法人の変更内容と添付書類を整えて県へ届け出ます。理事長の交代・重任がある場合は、法務局の登記手続も進めます。
理事長の変更登記は、組合等登記令に基づき、原則として変更から2週間以内の手続です。登記の起算日や添付書類は、変更内容を示して法務局または司法書士へ確認してください。根拠は組合等登記令第2条・第3条です。
県の役員変更届を、登記完了まで必ず待つという順番ではありません。 登記完了届は登記後の手続ですが、役員変更届は別の届出です。両方が必要なら、どちらも遅れないよう並行して準備します。
4.登記完了後、県へ登記事項変更登記完了届を出す
登記が終わったら、登記事項証明書を添えて、様式21号の登記事項変更登記完了届を提出します。県の記載要領では、遅滞なく届け出る取扱いです。
「司法書士に登記を依頼したから、県への届出も終わったはず」と思い込まず、誰がどの手続を担当するかを分けておきましょう。依頼範囲に県への届出が含まれているかは、依頼先ごとに確認が必要です。
兵庫県の役員変更届で準備する書類
県の様式22号と記載要領では、主に次の書類が示されています。変更の内容によって、必要な議事録や添付書類を選びます。
| 書類 | 準備するときに見る点 |
|---|---|
| 役員変更届(様式22号) | 誰が、いつ、どの役職に就任・退任したか。変更理由も対応させる |
| 役員改選に関する議事録の写し | 社員総会・理事会など、実際に必要な決議の記録。理事長の原本と相違ない旨の証明を付ける |
| 新たに就任した役員の履歴書 | 新任者について準備。理事長・管理者となる理事の免許証添付にも注意 |
| 役員就任承諾書 | 理事・監事への就任と、理事長等の役職への就任を区別する |
| 変更後の役員及び社員(評議員)名簿 | 役員欄と社員欄を混同しない。会議時点と申請時点の構成が違えば、両時点の名簿を用意する |
理事長や管理者となる理事については、健康福祉事務所・保健所で原本照合を受けた医師・歯科医師免許証の写しが案内されています。単に手元でコピーしたものと区別し、照合の受け方を提出先へ確認してください。
辞任・死亡した役員を補充しない場合は、県が示す議事録の写しと、変更前・変更後の名簿を確認します。姓が変わった場合には、変更前後が分かる住民票等を併せて提出する案内があります。
具体的な様式・議事録例は、兵庫県の役員変更届の記載要領・記載例から確認できます。登記がある場合は、これとは別に登記事項変更登記完了届の記載要領を使います。
提出先と部数は、主たる事務所と運営施設で確認する
医療法人の届出窓口は、診療所の所在地だけで決めず、法人の主たる事務所の所在地と、運営する施設の種類から確認します。
紙で提出する役員変更届などの「その他の届出」は、県の案内上、次の区分です。
- 病院・介護老人保健施設・介護医療院を運営する法人、主たる事務所が神戸市・姫路市・尼崎市・明石市・西宮市にある法人、2以上の都道府県に医療施設を開設する法人:原則2部。
- 上記以外の法人:原則1部。提出先は、主たる事務所を所管する県健康福祉事務所です。
前者の提出先は、主たる事務所を所管する市保健所または県健康福祉事務所で、神戸市は各区役所の保健センター管理係です。宛名も区分によって変わるため、用紙の「知事」「県民局長」等を見たまま選ばず、県の提出先一覧で自法人の窓口を確認してください。提出者側の控えは別に用意します。
役員変更届と登記事項変更登記完了届には電子申請の案内もあります。兵庫県「医療法人に関する手続きの電子申請」から、該当する様式と届出画面へ進めます。
電子申請では受付印を押した控えは交付されません。また、電子申請を選んだだけで、免許証の原本照合などの条件がなくなるわけではありません。書類を送る前に、原本を伴う確認の方法も合わせておきましょう。
診療所の管理者も交代するなら、別の変更手続を確認する
理事長交代と、診療所管理者の交代は必ずしも同時ではありません。理事長だけ交代して管理者は続投する場合と、両方交代する場合を分けます。
管理者も交代するなら、法人の役員変更届とは別に、診療所の開設届出事項等変更届を、診療所を所管する保健所等で確認してください。法人代表者の変更に伴い、診療所側で必要になる届出も併せて確かめます。兵庫県の診療所に関する電子申請案内には、診療所側の変更届が掲載されています。保健所設置市では、市の案内を確認します。
保険医療機関では、近畿厚生局への届出事項変更(異動)届も別に確認します。2026年4月1日以降、新たに保険医療機関の管理者となる人には要件が設けられています。 管理者の候補が決まった段階で、近畿厚生局の指定等に関する申請・届出の管理者変更欄と添付書類を確認してください。
法人の役員届、診療所の変更届、保険医療機関の異動届は、提出先と目的が異なります。一つ提出したことだけで、すべて完了とはしないようにしましょう。
手続に着手するための確認メモ
まずは、次の内容を1枚にまとめると、法人内でも提出先とのやり取りでも話が進めやすくなります。
- 法人名、主たる事務所、運営する病院・診療所等の所在地
- 変更前・変更後の理事、監事、理事長、社員、管理者
- 任期満了日、辞任日、選任日、就任日
- 現行定款、前回の議事録、役員・社員名簿、登記事項証明書の所在
- 誰が議事録・県届出・登記・診療所側の手続を担当するか
書類がそろい、自法人の変更が明確なら、県の現行様式に沿って準備を進められます。複数の役職が同時に変わる、任期や議事録の整合が分からない、診療所の運営と並行して届出書類を整える負担が大きい場合は、必要な支援範囲を相談する選択肢があります。
サクセスファン行政書士事務所へ相談する場合は、上の確認メモをもとに、役員変更に伴う行政手続についての対応可否・依頼範囲・費用をご確認ください。登記申請の代理は司法書士等、税務の判断は税理士の担当範囲です。 行政手続の相談と、登記・税務の依頼を分けて確認すると、任せたいことが明確になります。
設立後の運営変更や承継など、ほかの手続も重なる場合は、医療法人の総合ガイドで関連する手続の入口を確認できます。
確認日:2026年11月3日。兵庫県の現行掲載資料を基にしています。提出時には最新の様式・窓口案内をご確認ください。
