警察許可

警備業の契約書面と備付書類|交付・保存期間・苦情記録の解説

警備業の契約では、契約を締結するまでに交付する「契約前書面」と、締結後に遅滞なく交付する「契約後書面」を分けて管理します。さらに、顧客へ渡す書面とは別に、営業所には契約ごとの記録、警備員名簿、教育関係書類、苦情処理の記録などを備える必要があります。

契約書のひな型を用意しただけでは、交付する時期や業務区分ごとの記載事項、営業所の記録管理まで完了したとはいえません。この記事では、警備会社の契約・管理担当者に向け、契約前後の書面、電子提供、備付書類と保存期間を整理します。

開業全体は警備業認定の総合ガイド、申請時に提出する書類は認定申請の必要書類をご覧ください。ここでは、営業開始後の顧客との取引と営業所の記録を中心に扱います。

警備業の契約書面と備付書類は、交付先と時期を分けて管理

契約から記録管理までの流れ

① 契約締結前
契約の概要を記載した書面を依頼者へ交付
↓
② 契約締結後、遅滞なく
成立した契約内容を明らかにする書面を交付
↓
③ 営業所で管理
契約ごとの記録・人員配置・教育・苦情記録を整える
↓
④ 変更・終了時に更新
交付版と社内記録を照合し、書類別に保存期間を確認

契約前に渡したことだけで、契約後の交付まで済んだとは扱いません。

警備業法第19条は依頼者への書面交付、第45条と施行規則第66条は営業所の備付書類を定めています。同じ契約に関する情報でも、誰に渡すものか、営業所で何を記録するものかを分けると、抜けを見つけやすくなります。

確認先:e-Gov法令検索「警備業法」(第19条・第45条)

契約前書面と契約後書面は、内容が同じでも交付を分ける

書面交付時期役割
契約前書面契約を締結するまで締結しようとする契約の概要を明らかにする
契約後書面契約を締結した後、遅滞なく成立した契約の内容を明らかにする

警察庁の解釈運用基準は、契約後書面が契約前書面と同一の内容でも、契約後の交付が必要としています。内容が同じなら複写したものを契約後書面として交付することは可能ですが、契約成立後の内容や必要事項に不足がないかは確認します。

それぞれの書面は、必ず1枚にまとめなければならないものではありません。契約書、警備計画書、パンフレットなど複数の書面を組み合わせることも可能です。ただし、必要事項がどの書面にあるか、どの版を交付したかを明確にしてください。

見積書に金額だけが書かれていても、必要な契約概要が全て示されたことにはなりません。一方、書類の名称が「契約書」でないから必ず不適切というものでもなく、必要事項、交付時期、交付方法の実態で確認します。

交付に際しては、依頼者へ十分に読むよう告げるなど、記載内容を確実に理解してもらう方法を取ります。書面を渡した日、方法、相手方、交付した版を記録しておくと、後の確認にも役立ちます。

確認先:警察庁「警備業法等の解釈運用基準について」(第18)

確認先:e-Gov法令検索「警備業法施行規則」(第33条〜第35条)

記載事項は、共通条件と警備業務ごとの条件を照合する

必要な記載事項は、警備業法第19条と施行規則第33条・第34条で確認します。共通する主な項目は、実施日時、警備員の人数・担当業務、知識・技能、服装・資機材、報告、対価・支払条件、期間、再委託、免責・損害賠償、更新・変更・解除、苦情窓口、特約などです。契約後書面では契約締結年月日も確認します。

次の表は区分別の確認例で、全ての法定記載事項を網羅したひな型ではありません。機械警備を含め、自社が引き受ける業務に対応する条文と照合してください。

業務特に確認する内容の例
施設警備対象施設、鍵の管理、事故発生時の措置
交通誘導・雑踏警備実施場所、負傷等の事故発生時の措置
貴重品運搬警備対象物、路程、複数車両の車列、対象物の管理、事故発生時の措置
身辺警備対象者の氏名・住所または居所、危害のおそれ・発生時の措置
機械警備基地局・待機所、機器の概要、路程等、送信機器の維持管理

例えば施設の鍵を預かる場合は、預かる範囲、管理方法、貸出し・返却の方法を契約と運用で対応させます。再委託を予定するなら、可否、範囲、実際に実施する警備業者等を確認し、営業担当と現場担当で認識を合わせます。

契約に含まれない事項は、その旨を記載する扱いが警察庁通達で示されています。日程や場所などが未確定の場合も、契約内容に応じて決定時期や変更の可能性、候補を示せる場合があります。「全部未定」として条件を曖昧にするのではなく、合意する内容を具体化してください。

免責や損害賠償の条項は、書けば必ず有効になるものではありません。保険内容や他の法令との関係もあるため、責任範囲を確認して整えます。この記事をそのまま個別契約のひな型として使わず、提供する業務に合わせた書面を用意しましょう。

電子提供と再委託でも、交付義務の確認を省略しない

契約書面は、依頼者の承諾を得て、法令に沿った電磁的方法で提供することも可能です。使う方法の種類・内容やファイルの方式をあらかじめ示し、所定の承諾を得たうえで提供します。相手方がファイルを記録し、出力して書面を作成できることも確認します。

メール添付やダウンロード方式などを利用する場合は、内容を保存できるか、ファイルを開けるか、交付版を特定できるかを確認します。単にウェブ上で閲覧できるだけの画面や、相手方の承諾を取らない送信を、適法な電子提供と決めつけないでください。電子提供を受けない旨の申出があった場合の対応も、法令に沿って整えます。

確認先:e-Gov法令検索「警備業法施行令」(第1条)

確認先:e-Gov法令検索「警備業法施行規則」(第36条・第37条)

再委託では、依頼者から業務を受けた警備業者が、さらに他の警備業者へ全部または一部を委託する場合、再委託を受ける警備業者も、その委託元に契約前・契約後書面を交付する必要があります。「警備会社同士だから不要」とは扱いません。

再委託の取引には、当事者や規模、取引内容に応じて他の取引規制が適用される場合もあります。警備業法の書面だけで全ての取引上の義務を満たすと判断せず、別途確認してください。

営業所の備付書類は、顧客への交付書面と分けて整える

警備業法施行規則第66条は、営業所に備える書類を定めています。主な分類は次のとおりです。契約書の控えだけを保存して、他の記録を作らない運用では不足が生じます。

書類の分類主な内容
警備員名簿氏名等、採用・退職日、教育、従事業務、資格関係事項、所定の写真等
就業要件の確認記録欠格事由に該当しないことを確認した措置と、提出を受けた誓約書
護身用具の数量書面種類ごとの数量
指導・教育関係指導計画、年度ごとの教育計画、教育の実施記録と確認
契約ごとの書類依頼者、警備員の人数・担当業務、期間、業務に応じた場所等の事項
苦情処理の記録申出者、内容、原因究明、弁明、改善措置、処理担当者等

契約ごとの備付書類では、特定の種別の警備業務に当たる場合、その種別の合格証明書を受けた警備員の氏名も確認します。交付書面の情報を流用する場合でも、備付書類として必要な事項が揃っているかを照合してください。

教育の実施記録には、日時・内容・方法・時間・場所・実施者・対象者などを記録し、指導教育責任者と実施者が誤りのないことを確認した旨を付記します。教育時間や免除の判断は採用・新任教育・現任教育にまとめています。

施行規則第67条の条件を満たし、必要時に直ちに表示できる電磁的方法の記録で代えることも可能です。担当者の個人端末だけに保存して営業所では確認できない、退職者のアカウントにしか記録がない、といった状態は避けましょう。

確認先:e-Gov法令検索「警備業法施行規則」(第66条・第67条)

保存期間は、書類の種類と起算日で管理する

施行規則第66条第2項に明記された保存の取扱いは、書類によって異なります。「警備業の書類は全部2年」と一律に処理しないでください。

書類施行規則第66条第2項の取扱い
警備員名簿退職後も、退職の日から1年間備える
第1項第4号の指導計画書実地に指導した日から2年間備える
第1項第5号・第6号の教育計画・実施関係書類当該年度の終了後も、その終了の日から2年間備える

教育計画書には、当該年度の開始日の30日前までに備え付けるという別の期限もあります。保存の終了日と、次の年度の計画を用意する期限を、同じ管理表で取り違えないようにします。

契約ごとの書類や苦情記録などに、この表の「2年間」をそのまま当てはめることはできません。また、上記の警備業法令上の期間だけを見て、契約・税務・労務上の記録まで廃棄してよいとは判断できません。他法令、契約、紛争や事故対応上の必要性も確認し、書類ごとの保存ルールを決めます。

実務では「書類名」「対象者または契約番号」「起算日」「法令上の期間」「自社の保存期限」「保管場所」「廃棄の確認者」を管理すると、担当者の交代時にも引き継ぎやすくなります。顧客や警備員の個人情報は、必要な人だけが閲覧できるように管理してください。

苦情は受付から原因究明・改善まで記録する

警備業法第20条は、依頼者等からの苦情の適切な解決に努めることを求めています。警察庁の解釈では、依頼者だけでなく、周辺住民や通行者なども含みます。顧客以外からの申出だから記録しない、という扱いは避けます。

記録は「苦情があった」というメモだけで終えず、申出者の氏名・連絡先、内容、原因究明の結果、弁明の内容、改善措置、担当者を整理します。申出内容が未確認の段階では事実と区別し、調査の経過と結果を追記します。

例えば誘導方法への苦情であれば、当日の配置・指示・現場状況を確認し、必要な教育や運用改善へつなげます。契約内容への苦情であれば、交付した書面の版や説明・交付の記録と照合します。警察・消防等への緊急連絡が必要な事故対応は、通常の苦情処理と分けて進めてください。

確認先:e-Gov法令検索「警備業法」(第20条)

契約書面と備付書類のよくある質問

契約前に書面を渡せば、締結後は渡さなくてよいですか?

締結後も遅滞なく交付が必要です。内容が同じでも契約後の交付は省略せず、成立した内容と必要事項を確認します。

電子契約サービスなら、必ず法第19条の義務を満たしますか?

サービス名だけでは判断できません。必要事項、契約前後の提供時期、相手の承諾、記録・出力できる方式などを確認します。

保存期間を過ぎたら、全てすぐ捨ててよいですか?

書類ごとの法令上の期間に加え、他法令、契約、事故・紛争対応上の必要性を確認します。名簿や教育関係の期間を、契約書や苦情記録へ一律に流用しないでください。

開業時に書面の流れと管理担当を決めておく

開業準備では、業務区分に合った契約前後の書面、交付方法、営業所の備付書類、更新・保存の担当を決めておくと、受注後の確認漏れを減らせます。サクセスファン行政書士事務所への認定申請相談では、予定する業務と契約・書類管理の準備状況もお伝えください。

警備業認定のご相談。業務区分・人員体制・申請準備を整理
  • この記事を書いた人

行政書士 小野馨

平成17年行政書士開業・1973年1月生・神戸市出身。兵庫工業高等学校卒業、慶応義塾大学通信教育課中退。富士通株式会社でシステムエンジニアとして2年勤務。自分のやりたい仕事でないと退職。その後、30以上の職種を経験した後、起業家をサポートするため、平成17年2月に行政書士開業。1000社50業種以上に会社設立・許認可など5000以上の行政手続きを代行。